長野県岩村田高等学校同窓会

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長野県岩村田高等学校創立100周年

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活躍する卒業生 奥山圭一さん(高33回) 

  • プロフィール

1963年長野県旧八千穂村生まれ。日本大学航空宇宙工学科教授。

岩村田高(電気科)卒、大阪大学大学院修了。

川崎重工業、宇宙開発事業団開発員、ドイツ航空宇宙研究所研究員、九州工業大学大学院教授などを経て2020年より現職。

現在までにHYFLEXやUSERSといった宇宙往還機、スペースシャトル実験装置、国際宇宙ステーション極低温冷却装置などを開発。大学転身後は超小型宇宙機「しんえん2」、「てんこう」を開発し、これらをHⅡAロケットで打ち上げ。

開発中の「てんこう2」は新型国際宇宙ステーション補給機HTV-Xに搭載され、H3ロケットで打上げ予定。

JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」と深宇宙探査機「しんえん2」  ©JAXA

1.現在の仕事について

大学卒業後、川崎重工業と宇宙開発事業団(現JAXA)に所属し、宇宙から地球に帰還する宇宙船の開発に従事してきました。

我が国初の有翼往還機「HYFLEX」は,1996年にJ1ロケットで打上げられ、高度110㎞で切り離されました。大気中を高速で飛行する宇宙機は運動エネルギーが熱エネルギーにかわることで生じる猛烈な空力加熱に曝され、何も熱防御しなければ焼失してしまいます。「HYFLEX」はこの空力加熱に見事に耐荷し、パラシュート開傘で減速にも成功し、小笠原沖に着水しました。しかし、浮袋と機体とを結ぶロープが切れ「HYFLEX」は深海に沈んでいきました。

宇宙開発の現場は失敗がつきものです。しかし、どんなに辛くとも失敗を真摯に見つめ、そこから学び、次に活かす誠実な態度が求められていると思います。

リベンジのチャンスは直ぐに訪れ、大型宇宙往還カプセル「USERS」の開発機会が巡ってきました。「USERS」は2002年にH2Aロケットで打上げられ、その8ヶ月後に大気圏の再突入フライト、パラシュートによる減速、そして着水回収に成功しました。

2006年、大学に転身して超小型衛星の開発をスタートしました。2010年に打上げられた「UNITEC-1(しんえん)」は月に向かう途中で行方不明になり、音信不通になりました。それが悔しくて次のチャンスを待っていたところ、「はやぶさ2」と一緒に深宇宙を目指せる機会が訪れました。開発した「しんえん2」はH2Aロケットで打上げられ、たった1日で月軌道を超え、5日目には200万㎞の深宇宙に達しました。大成功でした。次に「しんえん2」が地球近くに戻ってくるのは500年後です。「しんえん2」の打上げは八千穂中閉校の前年であり、ここには生徒一人一人が手書きした校歌の縮小コピーが搭載されました。八千穂中は閉校になってなくなってしまいますが、八千穂中の皆さんの思いは長く宇宙にあります。

八千穂中学校一人一人が手書きした校歌
八千穂中学校校歌の縮小コピーを収納した専用ケース

2.高校時代の思い出

 当時の岩高は普通科4クラス、機械科2クラス、電気科2クラス(G組とH組)から成り、私はH組に入りました。男ばかりのクラスでしたが、思春期ということもありそれがかえって居心地がとても良かったと思います。電磁気学や三相交流、正弦波交流、半導体や電子回路などの授業があり、実習、実験、製図では不具合を潜在化させないためのもの作りの態度や姿勢を教えられました。これらは全て今でも技術者、研究者としての毎日に活きています。H組には野球部員が多く、同じ八千穂中から進学した同級生が長野県で一番の遊撃手として新聞で紹介されており、負けてたまるかと良い意味で触発されていました。所属した物理部は普通科、工業科の生徒で構成されており、同級生はもちろん先輩、後輩にも恵まれました。岩高を選んで本当に良かったと思います。

3.後輩に期待すること

現在開発中の「てんこう2」は新型国際宇宙ステーション補給機HTV-X初号機に搭載され、H3ロケットで打上げ予定です。

宇宙技術者の殆どは失敗を経験しており、私も大きな挫折を味わっています。ただし、困難の中にこそチャンスはひそんでおり、うついていたらそのチャンスは過ぎ去ってしまいます。立ち上がるためには、上を、宇宙をしっかりみつめなければなりません。人の真価は、満ち足りているときではなく、困難に立ち向かっているときに分かると信じています。どんな人も成功だけが連続することはなく、ときには耐えがたい失敗を経験することもあります。しかし、その挫折から学び、そして再び立ち上がる逞しさを勝ち得て欲しいと思います。新しい時代は、いつも夢見る若者たちのひたむきの努力から生まれてきました。私も、皆さん若い人たちに負けないようにこれからも前を向いて頑張っていきます。

H-IIAロケット26号機 打上げ
12月3日13時22分4秒に種子島宇宙センターから打上げられ、はやぶさ2としんえん2を含む3機の小型副ペイロードの分離に成功。この打上げは、八千穂中が閉校になる前年の出来事でした。
©JAXA
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